俗に「大師は弘法に奪われ、太閤は秀吉に奪わる」と言う。
大師という諡号を賜った高僧・名僧は大勢いらっしゃるのに、「お大師さん」といえば弘法大師を指すのが普通。
まあ、「ミスター」といえば、長島茂雄さんのこと、って関係ないか~。
ここでは、「大師=空海」のイメージが定着しているから、空海さんを策士と呼びたいわけではありません。
だって、生前の空海さんは「弘法大師」と呼ばれてはおりませんからね。
空海が「弘法大師」の諡号を朝廷から贈られたのは、死後87年を経過した、921年のこと。
前文で「死後」と書きましたが、「入定後」のほうが適切でしょうか。
空海さんが「大師号」をほぼ独り占めにしている理由に関しては、今回は触れません。
本記事のテーマは空海さんの策士ぶりというか、論理展開の巧みさについて。
これは褒めているんですからね、真言宗関係者の方々、そして空海ファンの皆さん、誤解なきように。
淳和天皇の天長年間(824~834年)に、当時の諸宗に教義を記した書を提出させました。
これが天長勅撰(ちょくせん)六本宗書というもの。
六宗とは、法相・三論・華厳・律・天台・真言でございます。
真言宗では、空海さん自身が『秘密曼荼羅十住心論』を著して、朝廷に提出。
この書は、略して『十住心論』と表記するのが一般的。
その内容が、空海さんの策士ぶり、いや、頭脳明晰さを物語っております。
空海著『十住心論』は、人間の心が「凡人」レベルから「究極の智慧」の境地に至るまでを10段階に分けて解説。
と、ここで常連さんは「はは~ん」と気づいたはず。
そう、最高ランクの10段階目は「秘密荘厳心 ひみつしょうごんしん」といい、真言密教の立場・境地なんですよ、これが。
まあ、やってくれるというか、想定通りというか。
さらに、皆さんの推察通り、密教以外の思想や他宗を真言宗よりも下の段階に位置付けております。
それでは、ごく簡単にレベル1~9までを紹介しましょう。
レベル1=凡夫、煩悩まみれ
レベル2ー世俗的な倫理・道徳、儒教の立場
レベル3=インド哲学、老荘思想の立場
レベル4=小乗仏教の「声聞」の境地
レベル5=小乗仏教の「縁覚」の境地
レベル6=大乗仏教の法相宗に相当
レベル7=大乗仏教の三論宗に相当
レベル8=大乗仏教の天台宗に相当
レベル9=大乗仏教の華厳宗に相当
そして、前述のように、この上にレベル10(=真言密教の境地)がド~ンと鎮座するわけですね、空海さんの頭の中では。
当時、最澄(767~822年)さんが生きていたら、おそらく反論したでしょうが、空海さんが『十住心論』を提出したのが830年ですから。
こんな感じで、空海さんは真言密教以外の大乗仏教各宗派を下に見ていたわけです。
ところが、ここで終わらないのが、空海さんの策士としての本領発揮。
さんざん、他宗を見下しておきながら、最後は以下のような感じで全てを丸く収めようとします。
⇒1~9段階までは顕教で、10段階目だけが密教(=最高)ではあるが、究極の密教の立場では煩悩も悪も迷いもすべて大日如来の現れである。
従って、密教到達前の9段階も密教的真理の現れとみることもできる。
以上のように、巧みに(?)論を展開して他宗や儒教なども真言密教の体系の中に包含してしまおうとする。
整合性を取り繕うというか、詭弁を弄するというか、、、
おっと、この表現は真言ファンにはカチンとくるか、ハハハ。
とにかく、空海さんというお方は抜群の頭脳をお持ちですね。
讃えているんですよ、タイトルに「策士」を入れたのも、、、
ということで、今回は弘法大師空海のスケールの大きさ(?)についてでした。
真言宗関係者と空海ファンを敵に回したかな?