ローシとリュウが魔物の攻撃を退けたあと、森の中を進む三人は、高い木々が生えていない、ひらけた一角に出た。
椅子代わりになる切り株に腰を下ろし、千夏はこれまでの出来事を頭の中で反芻しながら、情報を整理する。
~ 森狼は体長が3メートル50センチ前後か、ライオンや虎よりも大きいな、、形状は北欧ファンタジー系に登場する魔狼のような、、、
~ とりあえず「怪鳥」と思ったけど、よく見ると『ジュラシック・パーク』シリーズの小型翼竜に似ているかも、、、
~ 「ローシ・ザ・イソガイ」の「ザ」って何だろう? 英語の「the」と同じなのか? でも、英語なら「ローシ・ジ・イソガイ」の表記になるのでは、、、
「チナツ、これ食べてみな、美味いぞ」
山ぶどうの一種だろうか、リュウが差し出した森の果実をローシも口にし、「うん、ウマい」と唸った。
「おいし~い、なんですか、これは!」と千夏が歓喜の声を上げる。
口の中を味わったことのない、強烈な甘酸っぱさが駆け巡り、千夏の脳天を直撃する。
濃厚なのに飽きがこない天上の美味。
はしたないと思いつつも、山ぶどうの粒を口に運ぶ手が止まらない。
「これ、一度食ったら、病みつきになるんだよな~」とリュウ。
夢中で頬張り、味わいながら無言でうなづく千夏。
ふと、10メートルほど先に目をやると、赤柴の子犬が三人の方を見て、シッポをふっている。
その何とも言えない愛くるしさに魅了された千夏が、思わず立ち上がり、そちらに駆け寄ろうとした刹那、リュウが「近づいちゃいけない」と千夏の行く手を阻んだ。
いつの間にか、ローシも千夏の傍に立ち、「だめだ、チナツ」と厳しい口調で制止する。
あんなに可愛らしい柴の子犬、頭を撫でてやりたい、一緒に遊びたい、と思っていると、、、
「チナツ、あれは森狼の幼体なんだ。そばに行くと危険だ」
「リュウの言う通り。近くに親がいるはずだ。子連れの親狼を殺生したくはない。急いで、この場を離れよう」
後ろ髪を引かれる思いで、千夏はローシの後を足早に進む。
しんがりはリュウで、前後で千夏をガードしながら森の出口に向かう。
「ローシさん、あんなに愛らしい子狼が巨大な森狼に成長するんですね。あと、毛並みの色が、、、」
「幼体は薄茶色、少年期が黒、そして完全体が銀狼、それが森狼の成長パターンさ」とリュウが代わりに答えた。
「もしかしたら、私とリュウとで斃した森狼の中に、さっきの子の親がいたのかもしれない」
「巣に戻ってこない親を探し求めて、さ迷ったあげく、俺たちに遭遇したのかもな、ローシ」
そうであって欲しくない、あの子の親には生きていてもらいたいと千夏が願っていると、、、
~ ♬鐘が鳴る 鳴る 日は沈む~ 森狼の遠吠え オオオ~ン ワオオ~ン 雨が降ったら カエルが遊ぶ~♬ ~
調子はずれの歌声が前方から聞こえてくる。
「お~い、ローシの爺様~! お、リュウの兄貴もいるじゃねえか!」
見るからに陽気な若者が姿を現した。
「スダータ・テゲテゲか、、、また騒々しいのが出てきたな」
「森の奥で、森狼やら邪鬼やらと一戦交えたって噂になってるから見に来たんだよ、リュウ先輩」
リュウのことを「兄貴」と呼んだり、「先輩」と言ってみたり、なんだか陽気なお調子者キャラの登場かな、と千夏は冷静に分析する。
服装は真っ赤な上下で、上着のボタンが目立って大きい。
これで帽子をかぶっていたら、まさに『白雪姫』に登場する小人のコスプレだ。
「リュウの兄貴~、こちらのお綺麗な女性は誰だい?」
「チナツだ。異世界から来た」
「へぇ~、そりゃまた珍しい!」とスダータが興味津々で千夏の顔を覗き込んでくる。
ぎごちない微笑を浮かべながら、千夏は心の中で「このスダータさん、典型的なタヌキ顔、そう、アライグマに似ている」と呟いた。
陰で「ラスカル君」と呼ぼうかな、などと考えていると、、、
To be continued…