「目をつむっておけ」と言われても、凍り付きそうな戦慄の中にも好奇心の灯は消えない。
一頭の森狼が二人をめがけて、飛び掛かってくる。
巨大な牙を剝きだした巨狼の顔が近づいた瞬間、ローシの長剣が一閃!
ギャン!
首から上を切断された森狼の胴体は、後ろ脚で立ち上がった体勢から半回転しながら地面に崩れ落ちた。
ズシン、、、大地が揺れたかのよう。
「、、、?」声にならない恐怖と驚異に震える千夏。
と、ローシが千夏の体を小脇にかかえ、疾風のような身のこなしで近くの大木まで移動。
「チナツ、このウロに身をかがめておけ」と伝えるやいなや、戦闘オーラを全身から放つローシ。
大人一人が十分に入れるウロから、恐る恐る千夏が目にした光景は、、、
森狼が一頭、二頭と宙を舞う。
ローシの長剣が高速で煌くたびに、巨狼の首が飛び、胴体が両断される。
怪鳥の翼は切り裂かれ、邪鬼の巨体もローシの片手で地面に叩きつけられる。
七十代後半とは思えぬ、いや、人間の常識をはるかに超えた体さばきと戦闘能力。
獅子奮迅、一騎当千、疾風迅雷、、、、
森狼も怪鳥も邪鬼もローシ1人に翻弄されているが、敵の数は一向に減らない。
倒しても倒しても、次から次に森の奥から新手が押し寄せてくる。
「ローシさん、危ない!」
千夏の絶叫と同時に、邪鬼の鉄棒がローシの背後から振り下ろされる。
「当たる!」と千夏が声を上げようとした、その瞬間。
「遅いぞ、ローシ!」
鋭い声とともに、青白い閃光が走った。
「グェ~、、、」と悲鳴を上げて邪鬼の体が崩れ落ちる。
千夏の目に映ったのは、蒼い外套を翻しながら屹立する長身の青年。
右手には光を帯びた剣を持ち、端正な顔立ちには余裕のある笑みが浮かぶ。
「リュウ・アオーキー、、、お前さんか」とローシが苦笑する。
「相変わらず、派手な登場だな、リュウ」
「フ、年寄り一人に任せておけるかよ。さあ、とっとと片付けようぜ!」
息を合わせるように、二人は魔獣の群れに飛び込んでいく。
ローシとリュウが腕や脚を動かすたびに、衝撃が走り、閃光が煌めく。
妖しい野獣たちは断末魔の叫びをあげながら、はじけ飛び、砕け散った。
最後の怪鳥が落下し絶命すると、あたりに静寂が戻る。
警戒しながらウロから出てきた千夏の前に、光剣を鞘に収めながら、リュウが歩み寄る。
「初めまして、お嬢さん。俺はリュウ・アオーキー。まあ、ご覧の通り、少しは腕に覚えがある勇者だ」
え、「自分で、勇者っていう?」という言葉を飲み込んで、千夏はリュウの眩しい笑顔を見つめた。
「千夏です、、、助けていただいて、ありがとうございます」
「礼なんていいよ。困っている美女の力になるのは勇者の務めだからな」
「やれやれ」とため息をつきながら「リュウ、その軽ささえなければ、お前さんは一流の勇者なんだが」とローシ。
「なんだよ、ローシ、それは褒め言葉か、ハハハ」
軽口を叩きながらも、リュウの視線は千夏に向けられたまま。
興味と好意を隠そうともしない、ストレートな態度だ。
確かに、超人的な強さだし、イケメンだとも思うけど、、、千夏の心の奥にはリュウへの警戒感が芽生え始める。
このリュウって人、きっと誰にでもこんな感じなんだろう、、、
そんな千夏の胸の内を察知したかのように、ローシが「チナツ、リュウは凄腕だが、美女を見るとすぐに口説く悪癖がある」と苦笑しながら告げた。
「おい、ローシ、余計なことを言うなって!」
リュウの陽気な声が森に響く。
こうして、異世界での千夏の旅は賑やかさが加わって、さらに続いていく。
To be continued…