手のひらから約5センチ上の空中に、ユラユラと浮遊する光球。
「チナツ、さらに集中して『上へ』と念じてごらん」とシャリプトが促す。
無言でうなづきながら、千夏は再度深呼吸をして、「上へ、上へ」と精神を集中させる。
突然、「キャ~、助けて~~、ならず者が絡んでくるのよ~~」と素っ頓狂な声が店内に響く。
八頭身、いや、九頭身の美女が「ア~レ~、誰か~、助けてよ~~ん」と棒読みセリフ的な悲鳴を上げている。
困惑どころか、余裕の表情を浮かべた、このトップモデル級美女の横には、いかつい大男の姿。
その典型的な悪党面の輩が、彼女の腰に手を回そうとした刹那、、、
パン!
轟音が千夏の耳をつんざく。
操り人形の糸がきれたように、強面男の巨体が床に崩れ落ちた。
「出た~、ネイオーミの必殺ビンタ!」
「よっ、ネイオーミ最強!」
「才色兼備ならぬ、力色兼備のネイオーミ!」
あちこちのテーブルから、美女を讃える(?)ヤジが飛ぶ。
ネイオーミと呼ばれた美貌の主は、リュウが女性二人と談笑する席に素早く近づくと、「リュウ! アンタ、なんで私を助けないのよ! 元カノの危機を傍観して、、、」とまくしたてる。
「だってさ~、ネイオーミ強いじゃん、それよりもさ、その男失神してるんじゃ?」
「女に『強い』なんて、褒め言葉になってないから! リュウのバーカ、バーカ!」
すっかり精神集中を乱された千夏。
~ あのネイオーミって人、キツネ顔系の超絶美人! 体形はスーパーモデル、、、で、リュウさんの元カノ? ~ と興味津々。
「ちょっと、スダータ、アンタもなにボォ~としてたのよ! 私を守りなさいよ!」と攻撃の矛先を切り替えるネイオーミ。
「そんな、こっちに八つ当たりされても、、、、」とスダータが当惑していると、、、
いつの間にか、正気に戻った悪党面が立ち上がると、長刀を抜いてネイオーミに向かって距離をつめてくる。
~ え、え? あの大男、ネイオーミさんを刀で切りつけるつもり、、、~
と千夏が息をのんだ時、スダータがネイオーミをかばうように、ならず者の前に立ちふさがる。
「どけよ、チビ」と不敵な笑みを浮かべた大男が、長刀を上段に構えた瞬間、スダータが人差し指を男に向けた。
ビシッ!ビシッ!
大男の眉間と喉元に直径2センチほどの穴が開いたと同時に、血が噴き出した。
一呼吸おいて、男は両ひざを床につき、そのまま顔面から崩れ落ちる。
「いいぞ~、スダータ!」
「お見事!」
「指一本で人を殺すのはスダータだけ、って知らんけど、、、」
店中のテーブルから上がる嵐のような歓声と拍手を背にして、元の席に戻るスダータはニコニコ顔。
またしても、スダータの凄業を見せつけられた千夏は「鴨はともかく、これって殺人じゃ、、、皆さん拍手喝采してるけど、、、」と頭の中は混乱。
同時に、頭と喉を撃ち抜かれて絶命する人間を目撃したのに、悲鳴も上げず、取り乱してもいない自分自身に戸惑う千夏。
~ 異世界初日にして、すでに私は、流血や凄惨な光景に慣れてしまったのか ~
すると、二人組の男がスダータの席に近づき「スダータ、この死体の回収をしてもいいかな」と尋ねる。
「好きにしていいよ~、任せるよ~」と明るく返すスダータ。
二人は、うつ伏せで倒れた大男を仰向けにすると、上半身を起こして、上着を脱がせ、肌を露出させようとする。
「なぜ、裸にする必要が、、、」と小声でつぶやいた千夏に「チナツ、あれは体に焼印とか入れ墨があるかどうかを確認しているんだよ」とローシが答えた。
「烙印やタトゥーの文字、図柄・絵柄、記号などからいろんな情報が読み取れるのさ」
「ローシさん、いろんな情報って?」
「前科の有無、秘密結社のメンバーがどうか、裏家業の関係とか、、、、」
ローシの解説に耳を傾けていると、「お~い、後片付けの続きは店の外でやってくれ」と、大声が響いた。
店主ノンダがほろ酔い顔で「あと、床に散らばった血の始末もな!」と付け加える。
店内での流血ざたは日常茶飯事なのだろうか、と千夏が思いを巡らしていると、、、
「チナツ、魔力の開発はここでは無理かな、またの機会にしよう」とシャリプトが千夏に声をかけた。
~ あ、そういえば、光球は? ~ と肝心なことを思い出した千夏の視界左端から、スゥ~~と光球が右へ流れたあと、フッと消えた。
「シャリプト導師、申し訳ありません、指導を受けている最中に集中力を切らしてしまって、、、」
「チナツが謝る必要はない。この繁盛店が賑やかすぎるんだな」とシャリプトが優しい微笑みを千夏に向ける。
それにしても、、、現実ばなれした出来事の連続で理解が追い付かない、と千夏が嘆息していると、店内最奥部に妖しい影が浮かんできた。
その異形の物体が千夏たちのテーブルに近付いてくる。
「あ!」と息を飲んだ千夏が、ローシの腕にしがみついた。
二体の邪鬼が音もなく忍びよってくるではないか!
To be continued….