外国人学者から見た日本史の姿は? ~ 忖度なき視点が新鮮かも!

日本人だからといって、誰もが国史に詳しいわけではない。
当ブログも高校で日本史を履修した程度で、専門的な知識はさほど持ち合わせてはいない。
時折、興味のある時代や分野を扱った書籍や雑誌に目を通している程度だ。

さて、今回は『A History of Japan』という英書から、日本史ファンの興味を引きそうなネタをいくつか抜き出してみる。

◎ 称徳女帝と道鏡の関係をあからさまに書き過ぎ! 少しは忖度しろよな、まったく、、、

日本の教科書であれば、「孝謙上皇の病を治したことから、復位した称徳天皇の時代に道鏡は重んじられて、、、」とか「道鏡は称徳女帝からの信任が厚く、、、」程度の記述におさえることが普通だ。

しかし、先述の英書の著者MasonとCaigerの両氏は、そのものズバリの表現を用いている。
⇒The greatest single political scandal of the eighth century concerned a love affair between Empress Shotoku and a Buddhist priest, Dokyo (d. 772).

はっきりと「a love affair」と書いているから、英語圏の読者には「男女関係・肉体関係」の意味で伝わることになる。
また、この件を「political scandal」とした上で「The greatest single」で形容しているために、「8世紀の日本政界を揺るがした最悪の不祥事」ぐらいのイメージを読者に与える効果がある。

まあ、外国人のお二人からすれば、それこそが誠実な執筆態度ということになるのだろう。

◎ 平安時代の流れを三つの時期に分けて解説! 大胆ながらも、的を得ているような、、、

この英書では、平安時代を「三期」に分けて解説している。
それは、「781~850年」「850~1068年」「1068~1156年」という区分である。

*「781~850」=桓武天皇とその後継者たち(平城・嵯峨・淳和・仁明)の時代

つい、「平安時代は794年からでは」と言いたくなるが、著者たちもそれは百も承知の上で、あえて「781年」を始点としている。

781年は桓武天皇即位の年であり、即位の三年後、784年(延暦三年)に平城京から山背国の長岡京へと遷都し、さらに、794年(延暦十三年)には、平安京に再び都を移した。

日本の教科書では、平安京への遷都に焦点を当てて、平安時代の始まりを794年と説明する。
一方、MaisonとCaiger氏が桓武即位を時代の節目とするのは、両氏が桓武天皇の強いリーダーシップを重要視し、「781~850年」を、「天皇親政」の時代だと捉えているからだ。

常連の皆さんは、この説明をどのように感じますか?

*「850~1068」=藤原氏の時代

この時期は藤原氏の権力が伸長し、いわゆる「摂関政治」という用語が教科書に登場する。
一方、英書『A History of Japan』では、以下のように解説する。

⇒the Fujiwara family dominated the court and governed through puppet emperors.

英文中の「puppet emperors」に注目して欲しい。
この表現は、「天皇は藤原氏の操り人形だ」「天皇は藤原氏の傀儡である」の意味である。

日本の教科書であれば、「藤原道長は、朝廷で権勢をほしいままにした」程度の記述にとどめ、「当時の天皇は藤原道長の操り人形であった」などとは書かない。

二人の外国人著者による筆の運びを、あまりにもダイレクトだと感じる日本人もいるはずだ。
ただ、それゆえに、英米の読み手にはわかりやすいのだろう。
アマゾンで英文の書評コメントを読むと、星五つが多い。

*「1068~1156」=院政期

平安時代第三期の始点(1068年)は、我々の知る「院政の開始期」と同じだとみてよい。
なぜなら、摂関家を外戚(がいせき)としない後三条天皇の即位が、1068年だからだ。

この英書では、「院政」を「rule by retired emperors」と英訳している。
直訳すると、「退位した天皇による支配」となる。
「退位した天皇」を適切な日本語に戻すと、「上皇」となり、「rule by retired emperors」は「上皇による支配」となる。

同書では、retired emperorsに加えて、「cloistered emperors」も使用しているが、この用語は「法皇」の英訳である。

さて、この英書は平安第三期の終点を1156年に設定している。
1156年は、もちろん、「保元の乱」が起こった年だ。

保元の乱をもって、院政の終わりと見なす『A History of Japan』の視点を、日本人歴史家にはどうとらえるだろうか。
日本史専門家のご意見を拝聴してみたいものだ。

◎ おわりに ~ 外国人研究者の日本史解説もなかなか面白い!

日本人ならば、控えめに記述するところも、外国人学者はまったくお構いなし。
そのおかげで、英米の読者間で高い評価を受け、日本史に興味を持つ層が増えるのなら、良しとすべきかもしれない。

平安時代を、三期に区分する手法も興味深い。
日本人史家の視点からは異論もあろうが、英米の一般読者には理解しやすいと感じる。
当ブログにとっては、この英書は、時に新鮮な切り口を見せてくれる日本史ガイドとして役に立っている。