当ブログ「読書感想」で記事にした、田中康弘『山怪』と『山怪 参』を少し前に、気になる部分だけ再読した。
その『山怪』の「おわりに」で、田中氏は、「水木しげるがほとんどの妖怪に姿を与えたために、形あるモノとして妖怪は認知されているが、本来は音のみ、気配のみの場合が多い」という内容の記述をしている。
妖怪博士・水木しげるのおかげで有名になった存在の一つが座敷わらしであることは間違いない。
そして、山の怪異を紹介する『山怪』にも、座敷わらしは取り上げられている。
水木の描く「わらし」と『山怪』に登場する「わらし」には、共通点や相違点があるのか、ないのか?
特に、先述した田中の「妖怪は、本来は音のみ、気配のみの場合が多い」の部分が、実際の水木しげるの体験・見聞ではどうであったのか、少しだけ興味がある。
そこで、水木版「わらし」と田中版「わらし」を以下に見てみよう。
水木しげるの「わらし」は当ブログでも取り上げた『不思議旅行』(中公文庫)の内容から登場願うことにする。
◎水木版「座敷わらし」(『不思議旅行第2話』による)
舞台は岩手県の金田一温泉にある緑風荘という旧家で、宿の主人は、わらしを見たことがあるという。
主が言うには、二十四、五歳の頃、夜中に「ふわ~っ」と童子のようなもんが出たから、捕まえようとしたが、体が金縛りにあって動けなかったとのこと。
先の大戦中に、その部屋に泊まった陸軍中佐も見たらしい。
中佐は部屋に何か仕掛けがしてあると疑って隅々を調べたが、トリックらしきものは一切なかったので、しきりに不思議がったという。
複数の霊媒がこの宿に来て、口を揃えて言うには、このわらしは「亀丸」という子供の霊で、後ろに母親の姿も見えると告げた。
さて、この旧家に宿泊した水木自身は、わらしの姿は見てはいない。
ただ、わらしが出るとされる座敷で明かりを暗くして横になっていると、突然、胸が圧迫され、脈拍が大きく乱れ、座敷がぐらりと回り始めると、深い谷底に体が落下していくような感覚に襲われた。
あまりの恐怖に、水木は立ち上がり、部屋の明かりをつけて、事なきを得た。
⇒宿の主人や陸軍中佐は、「何かを見た」ようだ。
⇒霊媒たちは、童子とその母親の姿を霊視し、名前を「亀丸」と特定した。
⇒水木自身は、直接、わらしを目撃してはいないが、不思議な恐怖体験をしている。
◎『山怪 参』(座敷わらしと山の神)
舞台は、群馬県片品村にある古民家を改修した家。
こちらで暮らす、原紘次郎・葉子さん夫妻が経験した座敷わらしについての話。
葉子さんが台所で作業をしていると、子どもが座敷の方へタタタ~と走っていったという。
葉子さん宅を訪れた友人たちの中にも、「子供が家の外を走りまわっている」と証言するものが何人もいた。
ただし、子どもの姿を見た友人と足音だけしか聞こえなかった友人とに分かれたとのことだ。
もちろん、原夫妻に当時、子どもはいなかった。
また、数人の知り合いが遊びに来ていた時に、葉子さんは見たことのない女性が一人、家の中を歩いているのも目撃したそうだ。
髪が長く、白いふわっとしたような服を着ていて、音もなくス~っと入ってきて、そのまま家の中を突っ切って消えていった。
⇒葉子さんは、家の中を走る子どもらしきものを見た。
⇒白い服を着た、髪の長い女性の姿も目撃した。
⇒友人たちは、子どもの姿を見た人と、足音だけを聞いた人に分かれた。
さて、水木提供の岩手県の話と『山怪』にある群馬県の事例だけからみると、以下のようになるだろうか。
*『山怪』の著者、田中氏は「妖怪は、音のみ、気配のみの場合が多い」と説明しているが、先述の二例からすると、実際に「何かを見た」とか「こどもらしき姿を見た」とか「髪の長い女性を目撃した」との証言もある。
*ただ、同じ場所でも、童らしきものの「姿」を見た人と「足音だけ」が聞こえた人に分かれるようだ。
では、最後に「座敷わらし」を医学的見地から考察するとどうなるのだろうか。
◎レビー小体型認知症がもたらす幻覚・幻聴が「座敷わらし」の正体かもしれない説
認知症といえば、アルツハイマー型が有名だが、「レビー小体型認知症」という疾患もあるそうだ。
専門家によると、このレビー小体型の特徴は幻視や幻聴の症状が出ることにあるという。
しかも、この認知症による幻視は実にリアルだそうだ。
実は、ブログ主の友人の父親が、このレビー小体型を患っていた。
その友人の話では、父親が、誰もいない部屋の隅を指さして「おい、あそこにいる子供は誰だ?どこの家の子だ?」などと真顔で言うことが度々あったそうだ。
本人には、それこそ「ありありと」子供の姿が見えているのだ。
こういう事例から、「座敷わらし=認知症による幻視・幻聴」説を唱える人も多いようだ。
例えば、独協医大の先生方による『Levy小体病における幻覚とザシキワラシとの類似点ー民俗学資料への病跡学的分析の試みー」なる研究論文もあると聞いた。
興味のある方は、ネット検索してみてはいかがか。
(勉強不足のブログ主は未読で、申し訳ない、ハハハ)
◎おわりに
さて、今回も思いつくままに、「座敷わらしとは?」をテーマにテキトーな文を並べてきた。
最後に漫然と、当ブログなりの感想を列挙してみよう。
⇒高齢者が「座敷わらし」を目撃した事例の一部は、レビー小体型幻視かもしれない。
ただ、東北を舞台とする「座敷わらし」目撃報告が多い事実を論理的に説明できるだろうか。
というのは、レビー小体型認知症患者は東北地方限定ではないからだ。
⇒複数の霊媒が「名前は亀丸、後ろに母親もいる」と語った件では、全員一致の内容だから信憑性があると考えるか、それとも、皆で口裏を合わせていたと疑うべきか、、、なんとも言えない。
⇒原夫妻宅に出没する座敷わらし(?)に関して、その姿を見た人と足音だけが聞こえた人がいたいう話に「リアルさ」を感じたのは当ブログだけだろうか。
なんだか、原家のエピソードは「ホンモノ」のような気がするのだが、、、私が信じやすいだけなのか?
とまあ、いろいろ書き連ねてはみたものの、結局はよくわからない。
ホント、座敷わらしって、一体、何者なんだろ?
常連の皆さん、なにか興味深い事例を知っていたら、教えてください。