旧家に棲む大蛇は家の守護神! 邪険にすると祟られる! ~ 酒井家の場合は?!

酒井家豪邸は広大な敷地を持つ。
その私有地には、手つかずの自然も多く残されており、野生植物や動物たちの理想郷でもある。
キツネは時折、「ギャー!」という不気味な叫び声をあげるし、ハクビシンは勝手に裏庭の小屋に棲みついている。

中でも、一番態度がデカいのが、日本の国鳥であるキジだ。
なにしろ、自分が自然界の頂点に君臨すると思い込んでいる。
酒井が運転する車が近づいても、あわてず騒がず、悠然と邸内を闊歩していく。

むしろ、気を使っているのは酒井の方だ。
キジ様に向かって「危ないですよ~、轢かれちゃいますよ~」と遠慮がちに声掛けしながら、超低速度で庭内を運転する酒井の動画が先日届いた。

さすが、国鳥、何といっても、桃太郎配下の猛将だけのことはある!
人間など、屁とも思っていない。
酒井家近隣に暮らす老婦人などは時折、キジ様の機嫌を損ねて、蹴爪による強烈な攻撃を喰らうらしい。
そのばあ様は何度も死にかけたというから、キジ様を甘くみてはならない!

そろそろ、本題に入ろう。
今回の主題はキジ様ではなく、かつて酒井家を守っていた大蛇様である。

酒井が幼いころ、実家豪邸の天井裏はネズミやイタチのパラダイスであった。
タタタッ~、トトト~、ダダダダダ、、、大小様々な個体が思いのままに、毎日、運動会を繰り広げる。
当時の当主、酒井の祖父は小動物の饗宴がもたらす物音を泰然と聞き流しつつ、毎晩の晩酌を楽しんでいた。

ところが、ある時期を境にネズミたちのレクリエーション大会は幕を閉じた。
あれほど忙しく走り回っていた連中の足音が、ピタッと止んだのだ。

それから、数年後、東海地区を記録的な豪雨が襲った。
酒井邸の三十畳座敷の天井から雨漏りがしたため、業者を呼んで修理をすることになったのだが、、、

脚立に登り、天井裏を探っていた職人は「ギャ~!」と叫ぶなり、足を踏み外し、畳に落下した。
なんと、見たこともない巨大なアオダイショウがとぐろを巻いて、天井板に鎮座ましましていたのだ。
三メートルはあろうかという、その大蛇の頭は野球のボールほどもあり、爛々と輝く両眼で人間どもを威圧している。

腰を抜かした業者を尻目に、血気盛んな酒井少年は中庭から物干ざおを持ち出すや、すぐさま脚立を駆け上り、大蛇と対峙。
竹竿を振り回す酒井に対して、「コイツ、面倒くさいな」とでも言いたげな態度を見せた後、超大物アオダイショウは背を向けて移動していった。

翌日、そのまた翌日と、好奇心に駆られた酒井は天井裏を覗いてみたが、そこに大蛇の姿はなかった。
さて、大蛇騒動から三日目に酒井家に激震が走った。
一家の大黒柱である祖父が急逝したのである。

持病もなく、身体は頑強そのもので、85歳を過ぎてもスポーツタイプの自転車を乗りこなし、毎日、アンパンを買いに行く。
裏庭でマムシと遭遇すれば、金づちで頭を潰して退治し、孫の酒井に「ほれっ、マムシ!」と見せては喜ぶ。
野兎を捕まえては、家族にウサギ汁を振る舞い、時には、飼っていたヤギに蹴られるという油断も見せた。

地元では、酒井家の「スーパー爺様」と呼ばれていた。
その壮健な明治男が、何の前触れもなく、突然、眠るが如く旅たったのだ。

酒井が追い払った大蛇は、酒井家を守るヌシ様だったのかもしれない、と家族の誰もが思ったという。
因果関係を証明することは不可能だが、旧家に棲みつく蛇はその家を守護し繁栄させるという言い伝えは、珍しいものではない。

そのアオダイショウが去ってから一か月もすると、酒井邸の天井では小動物たちのカーニバルが再開された。
ネズミや小イタチが元気いっぱい、自主トレに励みだした。

しかし、その翌年、いたずらネズミどもの活動が、はたと止まった。
例のアオダイショウがご帰還あそばしたのか、それとも別の大蛇が棲みついたのか。
静かな夜更けに、時に、「シャー、シャー」という音がするらしい。

例の一件の反省から、酒井家では、その後は何があっても天井裏のヌシ様の機嫌を損ねないように配慮している。
そのおかげか、酒井家はここ数十年、家内安全、順風満帆の日々が続いている。

ご存じのように、酒井本人も地方議員として誠実に職務に励み、地元に多大な貢献をしている。
酒井個人の努力もさることながら、おそらくはヌシ様のご加護もあるのだろう。

常連の皆さん、もし実家あたりでヘビを見かけても、決して邪険にしてはいけませんよ。
それは、家を守ってくれているヌシ様ですからね。